Agape World
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小西孝蔵

 

惠子ホームズさんとアガペーとの出会い

 

 

惠子ホームズさんとの最初の出会いは、今から約20年前、私がロンドンの日本大使館の参事官として赴任していた頃でした。ジャパンソサイアティ(日英協会)のレセプションに家内と一緒に出席していた時,同じテーブルにお話しさせていただいたのが、惠子ホームズさんでした。

 

当時、ジャパンフェスティバルが初めてロンドンで開かれ、多くの日系企業が英国に進出して、日英関係が良好になっていた頃でした。その中で、POW(戦争捕虜)の問題がのどに突き刺さった小骨のような痛みとなり、深い陰を落としていました。正直言って、私がロンドンに赴任するまで、POWの問題があることにも気づいていませんでした。そんなことも知らないでイギリス人とお付き合いしていた自分が浅はかに思われました。

 


11月11日はポピーの日。戦死した兵隊や捕虜として亡くなった人たちを偲ぶ日。また「2度と戦争をすまい」との思いが込められているポピーが、9月ころから巷にあふれる。ロンドン、ビクトリア駅にて。

 

ホームズさんのお話を伺い、自分を犠牲にしてまでも英国の戦争捕虜の耐えがたい苦しみと傷のいやしのために全力を尽くされた彼女の姿に感動しました。日本人に対する憎しみを抱き続けている元戦争捕虜の多くの英国人とその家族に対し、日本人を代表して心から謝罪し、和解への道を開かれました。そうした彼女の信仰と愛の実践は、素晴らしいものでした。

 

1988年天皇陛下ロンドンご訪問の際、日本の国旗に火をつけて抗議した元戦争捕虜のジャック・カブラン氏も彼女に出会って日本への憎しみが取り除かれた一人でした。日本への和解の旅に車いすで参加した元戦争捕虜が憎しみと車椅子から解放されて、日本のファンに大変身して帰国した話も伺いました。

 

私たちがその後日本に帰国してから、惠子ホームズさんが英国からお連れしたイルカボーイズと言われる元戦争捕虜らの歓迎レセプションに家内と何度か参加させていただきました。私たちは大したお手伝いもできず、内心忸怩たる思いでした。

 

当時大使館でご一緒させていただいた藤井大使がその後、元戦争捕虜の方々の和解の旅に日本政府としてもお手伝いされたことを後でお聞きして、嬉しく思いました。  最近では、惠子ホームズさんが、日本にいらっしゃる機会にインターナショナルVIPクラブの会合や教会にお呼びして、彼女の献身的な活動と和解の旅のお話を伺いました。戦争捕虜として非人間的な扱いを受け、その憎しみによって長年閉ざされた心が、イエスの十字架によって示された神の愛、アガペによって癒されていくというお話しを繰り返し伺い、感銘を受けました。

 

(アジアの隣国との和解と交流)

 私事になりますが、今から約40年前、大学3年の頃、日韓の学生によるワーキングキャンプに参加しました。戦争中に日本軍が堤岩里教会焼き打ち事件など朝鮮人を虐殺したり、苦しめたりした過去の罪の赦しと和解に気持ちを伝え、両国の若者同志の未来の関係を築きあげるものでした。両国の大学生数10数名が参加し、真夏の炎天下1週間、大邱市で児童公園の造成工事に取り組みました。

 

私は、働き過ぎて熱射病にかかり、ホストファミリーの韓国人家族にご迷惑をおかけしましたが、親切に介抱していただいて助けられました。ワークキャンプを通じて韓国の同世代の友人ととても仲良くなり、私たちの仲間から韓国へ留学して日韓の架け橋となった人もいます。私もいまだに文通を続けている友人がいます。  

 

中国や韓国との間には、戦前の日本軍の侵略行為に対して今日なお大きな反発があります。若い世代にもこの歴史認識と敵対感情は受け継がれていきます。日本の中では、中国側の主張は歴史的事実ではないと主張する人たちもいます。しかし、正確な死者の数が把握できなくても、日本軍関係者などの証言から見て、日本軍の行った行為は動かしがたい事実だと理解しています。

 

謝罪の表明については、タイミングや場をよく見ることが必要ですが、個々人が過去の歴史的事実をよく学び、謝罪と和解の気持ちを心に持ちながら、相手に接するのでなければ、両国の間の不信感や対立はいつまでも消えることがないでしょう。大分前のことですが、プライベートの場で、中国の友人との話の流れの中で、私の方から、戦争中の日本軍の行為について謝罪の気持ちを伝えたところ、友人の表情が変わり、より親しくなることができたというささやかな経験もあります。  

 

もちろん、領土問題や知的所有権の問題など主張すべきことは、はっきりと主張すべきではありますが、国家対国家、企業対企業だけでは、中々信頼関係が深まらないのではないでしょうか。そこに、民間の草の根国際交流の役割があると思います。過去の歴史認識を踏まえた人と人との交流が相互の信頼関係を築き、やがて国と国との関係改善に寄与するものと信じています。

 

日本で勉強している留学生の数は、年間約14万人で、国別でみると上位5カ国が、中国、韓国、台湾、ベトナム、マレーシアで約12万人と大半を占めています。私も、若いころ米国の大学に留学していた時に、ホストファミリーの家庭に週末招かれ、大変お世話になりました。御蔭様で、独身でも孤独を感じることはなく、今でもありがたく感謝しています。

 

東南アジア友好協会も戦後早くから東南アジアの留学生を受け入れ、東南アジア各国との交流に大きな働きをしています。アジアからの留学生を家庭に招いたり、大学以外で交流する機会を持つことによって、日本人に対する信頼感が生まれるものと思います。

 

(アガペーによる平和の絆)

イエスが山上の垂訓として語られた言葉に「『隣人を愛し、敵を憎め』と言われていたことは、あなたがたの聞いているところである。しかし、私はあなたがたに言う。敵を愛し、迫害するもののために祈れ。」(新約聖書マタイ5章43節、44節)とあります。このことは、常識的には不可能なことです。

 

しかし、ひとり子キリストをこの世に遣わされた神の愛(アガペー)によれば、不可能が可能となるのだと思います。使徒パウロがこう言っています。「キリストは、私たちの平和であって、・・・彼に会って、二つのものをひとりの新しい人に造り変えて平和をきたらせ、十字架によって、二つのものを一つのからだとして神と和解させ、敵意を十字架にかけて滅ぼしてしまったのである。」(エペソ人への手紙2章14~16節)。

 

惠子ホームズさんの働きは、まさにこれらの聖書の言葉が、国境を越え、様々な偏見や対立を超えて、真の平和をもたらすことを示しています。そこにアガペー(神の愛)が働くからです。これまで長年継続して取り組んでこられた彼女の和解への活動によって、アジアも含めて、人と人、国と国との間に新しい信頼関係の輪が広がっていくことを願っています。

 

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